名勝錦帯橋再建記
その５ （１３９〜１７０頁） / 全400頁岩国中央図書館所蔵
品川 資（当時、岩国市錦帯橋建設局次長） 著述 1954年5月発行
操作法： ページ縮小図を押すと拡大ページになり両端を押すと頁めくりです。拡大後、枠外周辺を押すと閉じます。
第ニ編 工事
A 工事設計及び施工計画
１ 工事設計
２ 施工計画の概要
B 工事施工
1 錦帯橋残骸取除き工事
2 地質調査
3 気象調査
4 橋脚工事
5 橋体工事
-
第ニ編 工事
A 工事設計及び施工計画
錦帯橋再建工事は吉川家保存の原型図書、岩国市保管の図書を基礎に、佐藤、青木博士により近代工法を加味して設計図面が作られた。 施工計画は財政収支、工事時期等を勘案して工事を推進した。一 工事設計
設計内容は「名勝錦帯橋災害復旧工事設計書」及び付属設計図(岩国市役所総務課及び徴古館で保存）に詳しく記載されている
-
ニ 施工計画の概要
(1)最初の施工計画
昭和26年度中に橋脚完成を目指し、旧錦帯橋の残骸取り除き、地盤調査、基礎工事、橋脚建設を予定した。完成は昭和27年度末である
しかし、昭和26年7月のケイト台風、10月のルース台風により、基礎工事に甚大な被害があり実施困難になった。
-
(2)変更施工計画
(一)第一、第ニ橋は昭和二十七年三月末までに橋脚、橋体工事を完成させる
(二)第五橋々体架設を昭和二十七年夏の台風シーズン前までに完成させる
(三)中央の第三、第四橋々体架設は、橋脚完成見込みの昭和二十七年十月上旬に着工して、昭和二十八年三月末までに完成させる。 雑工事との関連をみて、渡り初めは四月または五月上旬に行う
木材納入遅延と、三月の天候不良で(一)の計画は達成できなかったが、その後は順調に進捗して予定より早く完成した。 昭和二十八年一月十五日渡り初め、昭和二十八年三月末、竣工式を行い、竣工後も手直し、補修工事を続けた。
注 竣工は雑工事も含め建物が完成した事を言うが、当初計画(1)通りの竣工式を行い竣工後に雑工事等をおこなった。B 工事施工
一 錦帯橋残骸取除工事
昭和２５年９月のキジヤ台風で橋脚４基中、真ん中の２基は完全崩壊した。両端の第一、第五架橋は残存したが使用に耐えず、中央の第二、三、四。架橋は 完全に流失した。流失した木製架橋は解体分散して、岩国市臥竜橋付近、愛川橋上流地点、藤生黒磯海岸、由宇町有家海岸、鳴門村海岸、 大島郡小松村前島海岸に漂着した。キジヤ台風直後の写真はここに掲載しています。
-
(1)旧橋体の取除及び回収
イ 臥竜橋に引懸かった旧橋体は、第二分団消防団により直ちに解体・引き揚げ作業が行われた。流失を免れた第一、第五橋は株式会社日野組の奉仕作業で解体した。 解体した木材は旧吉川邸内の広場に野積みとし、古銅版類は横山の岩国市錦帯橋建設局倉庫に、古鉄金属類は深川前旧車庫に保管した。
ロ その他漂着物
殆どは回収不能の状態であったが、神代村で取得された銅板は岩国市建設局に返納された
(2)橋脚の解体・取除
キジヤ台風翌年の昭和２６年３月より着手して翌年の２月まで約１年懸かった。単なる解体ではなく崩落原因解明と現状復旧を目的にしていたため 各石にペンキで番号標識を書き、両岸土手付近に集結して厳重に管理した
注 回収した旧橋の残骸は次の通り処分した
1 松・檜の一部はそのまま、或は製材して仮橋架設用材に流用
2 松・檜の一部は工事用、倉庫の敷板に利用
3 欅（ケヤキ)の良質材は、渡り初めの記念品として茶托に加工した
-
4 橋桁一連（一番から十一番桁までと、大棟木）と高欄一組（凝宝珠を含む）
徴古館保管
5 雑材、銅板類、金具類
入札で売却した
6 凝宝珠６個
市役所会計課で保管
注 凝宝珠は江戸時代では格式高い飾り付けで吉川家６万石では許可されなかった。昭和初期の架け替えの時、市民の要望で欄干に凝宝珠を付けた
注ニ 人柱の伝説
延宝二年の錦帯橋補修工事の時、橋が流失しないように各橋脚に人柱を立てたという噂があった。川下村の浮浪者を集めて埋めたと、まことしやかな伝説があった。 橋脚の解体では人骨が出るか仔細に点検調査したが、遂に出なかった。代わりに小刀・小柄（こづか）、石工用道具が出土し、徴古館で保管している。 第二橋脚の基礎に人形らしき木片が出たが、これが人柱伝説になったかという推測もあるが定かではない
人骨が出なかったことは、広嘉公の人徳、仁政を物語る証左であり、却って良かった
ニ 地質調査
錦帯橋の橋脚基礎は、古式では「生松編木法」であったが、内部の栗石が流失して空洞になり崩落した為、建設省の指導で 鉄筋コンクリートの井筒工法に変更になった。これに沿って橋脚２箇所１５ｍ、横山・錦見側橋台２箇所は１０ｍのボーリング調査を行った
-
この調査の結果、河床面より地下１５ｍまでは砂利地層で岩盤層はその下にあることが判明した
横山・錦見側橋台２箇所は古来より被害が少ないので井筒工法は不要との意見があったが、青木博士が長期的な歳月では何が起きるか分からないので 後世の笑いものにならぬためにも、全て井筒沈下工法に決定した
三 気象調査
工事中は洪水による被害が大きいので、ラジオや新聞の予想だけでなく岩国市建設局独自の判断が出来るように建設局気象係を設けた -
(1)過去の気象調査
錦川、岩国地区の過去５０年〜５５年の天候、降雨量、洪水時水位、洪水時被害を調査した
(2)気象情報の連絡
広島気象台、下関測候所、岩国米軍基地気象班と綿密な連絡を取り、台風発生時は台風進行経過図を作成して緊急連絡網で周知徹底した
(3)気象観測、水状調査
雨量計、風力計を備え風速、風の方向、降水量、及び錦川上流の向道ダムの貯水量、放水量、放水時間などを把握して錦川の出水量・水位を予測した。 -
四 橋脚（台）工事
旧錦帯橋は、橋脚間の距離は同一ではなく橋脚の方向も微妙に違っていた。微妙に変えている理由は相子相伝だとか、 ２７６年間で河床や流水が変化したとか諸説あった。広嘉公時代の間隔・方向にあわす理由が不明なので今回は、間隔は均一で 橋脚の向きは平行にした。従来、第一橋と第五橋の長さが異なっていたが、これも同一にした。 -
創建時、４基の橋脚は同じ高さだった。洪水時に流水の水位は中央部ほど高くなるので、架橋が流失しないように
岸壁側橋脚２基は創建時より０．５ｍ高く、中央の橋脚２基は１ｍ高くした
(1)橋脚基礎（井筒)工事
イ 生松編木法を井筒工法とした理由
創建時の橋脚基礎は生松の大木を所定の輪郭に杭打ちして柵を作り、その中に栗石を漆喰で固めて充填している。 この基礎の上に立つ橋脚躯体が３００年近く持ちこたえたのは延宝二年(1674年）の改修の時、橋脚間と上流・下流４０ｍに渡って 石畳を敷き、橋脚が洗い流されるのを防いだからである。それが長い年月で損傷を受けキジヤ台風で完全に壊滅した結果、 橋脚躯体は脆くも崩落した。そこで、今回は敷石をたよりとせず、基礎そのもので持ち堪える仕組みにした。
ロ 井筒の構造概要
錦川真ん中で水流の激しい橋脚２基には基礎として、厚さ0.4m、横幅4.5m、縦9.5mの鉄筋コンクリート井筒を各２本並べて１０ｍ沈下させた。 井筒下部には損傷防止のため沓鉄を嵌め込み、沈下後井筒底に厚さ1.5mの水中コンクリートを充填し、筒内には栗石を充填した。 同一橋脚に流れに沿って２本打ち込んだ井筒の上には鉄筋コンクリートの床板を設けて、２本の井筒を連結させた。 -
比較的水流のゆるい岸壁側の橋脚２基の井筒は、小ぶりの厚さ0.4m、横幅3mを各２本、5ｍ沈下させた。
沈下後井筒底に厚さ0.8mの水中コンクリートを充填し、井筒の上には鉄筋コンクリートの床板を設けて、２本の井筒を連結させた。
ハ 井筒沈下作業概要
土工事用掘削機の一種ガット、ブームで吊ったバケットを口の開いた状態で落下させ、それを閉じて土砂をつかみ取ることで 井筒内の土砂を掘り出し、井筒自体の重量で沈下させた。沈下終了後、潜水夫が底部の地ならしを行い、井筒内にホースを 垂らし水中コンクリートを底部に流し込んだ。
この井筒埋め込み工事はルース台風で第１号橋脚井筒が土砂で埋まった以外は順調に進捗した。
注一 建設省はルース台風の被害に鑑み、橋脚の基礎は鉄道橋で使われている井筒構造に決定した。ルース台風で流失した錦帯橋下流の 橋も井筒構造で復旧した。
注二 井筒の沈下は当初８mと決めていたが、ケイト台風の水位を考慮して青木博士の申し入れで１０ｍに変更した。
-
(2)橋脚上部構造の工事
イ 心壁工事
心壁は井筒の上部に設置する鉄筋コンクリート製搭状構造物である。地下の基礎、井筒と密着に接合して周囲に旧錦帯橋の橋脚積み石を 配置している。見た目は古式錦帯橋の橋脚そのものである。キジヤ台風では橋脚躯体内部の砂利や栗石が流失して空洞・崩落したが、 今回の工事では太い鉄筋コンクリート製搭状構造物が中心にあるので空洞・崩落の可能性は無くなった。
心壁の内部を空胴にする案も出たが、全部コンクリートで充填にしており頑丈なものになった
ロ 桁受け工事
錦帯橋の木造架橋部は橋脚の上に置くだけで、両側の架橋からのツッパリ力を隔石が受けてバランスを取っている。 この隔石付近に雨水が溜まり木材が腐食しやすい弱点があったので、鋳物製の桁受け沓鉄に変更した。 この沓鉄は通風・排水機能があり、木材を乾燥させることが出来るが、取り付け角度を間違えると橋体が曲がったり角度が違ったりするので 慎重に行った。慎重で精密な測量が必要で尤も苦心した作業であった
-
ハ 躯体張石工事
旧錦帯橋では石垣で強度を確保したが、今回は基礎の井筒と心壁で行っているため心壁の周囲に張り石を施して旧錦帯橋どおりの外観にした。 石材は旧錦帯橋のものを其の侭使ったが、石材の奥行きは１ｍ強あったので、心壁に遮られて６０ｃｍ以内に切断する必要があった。 石材の間に詰める漆喰は、専門家の意見を参考に固着力の強いホワイトセメントと砂を混ぜたものにした
-
橋脚躯体張石の上下両端に形造る剣先の「そり」は、旧錦帯橋では同一でなかった。今回はこれを一致させた
心壁と張石の間にコンクリートを充填したが、セメントの「あく」が目立つようになった。三井化学工業株式会社から希塩酸の寄贈を 受け、これで洗浄するときれいに落ちた -
橋脚の石積みは作業というより芸術品であり腕のいい石工が見つからなかった。しかし、広島県加計町から河野実・小笠原覚の両名が
9ヶ月間心血を注いで苦心の結果、立派な橋脚が出来上がった。この功績を後世に伝える。
ニ 天端敷石
天端の敷石及び笠石は全て広島県倉橋島産である。 -
（３）普通橋脚基礎工事
岸壁から橋脚までの第一、第五橋は流水が緩やかなので、地面に柱を数本打ち込んで支えている。創建当時は松の丸太を削り地面に刺していたが これでは腐食するので、地下１ｍ付近に厚さ４〜５ｃｍの四角い石（俗称、豆腐石）を埋め、これに受石を据付け、杭柱を金具で締め付ける 方法であった。
しかし、杭を川の中に打ち込むと流木が激しくぶつかり、豆腐石が強固な基礎の上には無いので接合部に狂いを生じやすい
これを補強するため、今回の再建では受石の基礎に生松の杭を数本打ち込み栗石を敷き詰めた上に、厚さ2.3mのコンクリートの床台を設け、これに 受け石を0.5m嵌め込み、接合部は従来のごとく杭柱と受石の接触部を凹凸にして互いに食い込ませる方法にした。 受け石は旧錦帯橋のものを使用する予定であったが、旧錦帯橋取り除き工事の時、破損したものが多く、かつ橋脚の積み石と 風合いが違ったので倉橋島産の石に変更した
注 錦帯橋の大きさから見ると杭は小さく見えるが、近くに寄れば旧家の大黒柱より太く大きい
-
五 橋体工事
橋体工事は次の4工程である
(一）原寸図の作成
（二）用材の切組作業
（三）拱橋の仮組立
（四）架橋
詳細は錦帯橋再建主要工事工程表を参照のこと。
（１）錦帯橋架設協同組合の結成について
錦帯橋の架橋工事は昔から岩国在住の棟梁によって相伝へ施工せらるるのが慣例である。 西岩国の棟梁21名が連名で、これを請け負わせてくれと市長に請願し、市長も了解する気でいた。 今日では建築士のの資格が必要であり、また過去に錦帯橋架橋の経験があるかを調査したところ問題ないので この21名を中心に錦帯橋架設協同組合を結成した。
-
錦帯橋架設協同組合の代表者は当初、片倉寅吉としたが、第一、第二橋の架設終了後は篠原経一に変更した
当初組合員は21名であったが、脱退した者があり18名の組合と、常時参加する数名の集団で架橋した
（２）架橋の順序及び方法の概要
イ 拱橋（第二、第三、第四橋）の場合
(一）切組の終わった桁部用材を陸上で仮組立する。併行して架設用足場を組む。
(二）仮組立を解体して、用材を現場に運搬する
-
（三）両側の橋脚桁受部に敷桁を取付け、一番桁を桁受沓鉄に嵌め、次にニ番桁、三番桁、四番桁、五番桁を両側から
同時に進め、中央で大棟木を嵌めこむと、桁の架渡が終わる。このとき、足場に支柱を立て桁を支える。
（四）刎ね出す桁の先端と足場に取り付けた水平木の距離を所定どおりに微調整すれば橋が円形になる。 足場に示した中心線を外さないように位置を決めバランスを調整する
(五）桁巻金、鍄（かすがい）を取り付けて締め付けを行い、足場と桁の間に設けた支柱を外す。
(六）桁の上に平均木を取り付けて完全な円形にすると共に、階段を刻みこんで橋板を打ち付ける
(七）五列の桁・梁の間に、肋木、鞍木（V)、振畄（X)を取り付け、各種ゆれに堪える構造にする
（八）橋体の側板といわれる苔板、橋板を取り付け、欄干の仕上げを行う
注一 桁部を雨にぬらさないため、平均木と橋板の間、橋板の継ぎ目、梁の両端などには銅版を張っている
ロ 普通反り橋（第一、第五橋）の場合
(一）橋代及び橋脚の桁受け部に敷梁を置き、杭柱３本を１脚とする普通橋脚５脚を河床の受石に乗せて岸から橋脚まで並べる。 杭柱に梁を通して桁を掛け渡す。
(二）橋台及び橋脚桁受け部への桁取り付けはボルトで締め付ける。普通橋脚を受石へ載せる場合は、三本の杭柱を 横に「ヌキ」を通した仮組み立てのまま、１脚を一挙に巻き上げ機で吊り上げる。
-
（三）一脚ごとに桁架渡を行い、要所に鍄（かすがい）を打ち込み締め付けを行う。
（四）足場を設けて、苫板、高欄の取り付けと仕上げを行う
（五）雨水による桁部腐食を防止するため、橋桁には栗板製の屋根を設け、橋板継ぎ目には目地用材のエラスタイトを充填する
(3)原寸図
昔から伝わる原寸図は、実物大の型板で橋体桁部の側面図である。この型板には切込み及び巻金の取付鍄の打ち込み箇所、寸法が詳細に 図示してある。この型板を作業場に運び墨付け・切組を行う。この型板は使用の都度破損するので随時、取替え修正して吉川家の倉庫に 保管されている。今回の再建工事では昭和二年架け替え時に作成した型板を使った。 -
岩国市建設局は、型板は重要なので縮尺図を作成して別途、保管している
(４）切組及び仮組立
イ 用材切組作業と作業場の選定
再建工事中は約１０ヶ月間切組作業を行う。従来は錦川原、徴古館前道路、横山側グラウンドを作業場所に使っている。 （平成の架けかえでは関戸の倉庫で行っている）
今回切組作業場は、架設協同組合に近い深川前旧車庫と横山側グラウンドに決定して幅５間、長さ２０間（１００坪）の作業場を建設した。 洪水がある場合は吉川邸内広場を使うことにしたが幸い、天候に恵まれ退避は行わなかった
-
ロ 切組作業用具の改善
切組作業は、鉋（かんな）、鋸（のこ）、鑿（のみ）が主な道具であるが、自動鉋機及び自動削機を利用して作業の効率化を図った
ハ 仮組立
桁の組立方法が複雑で困難なので陸上で仮組立し、切組の良否、組み合わせの難易、用材の過不足、桁の構成が中心線からずれていないか、 設計通り橋が曲がっているかなどを確認する。
（５）架橋工事
イ 第一期工事（第一、第二橋の架設）
第一、第二橋の用材切組作業は昭和２６年１月末に開始し、昭和２７年３月末架橋完成を目指したが降水が多い上、ケイト台風、ルース台風の被害、原木の輸送、製材、 防腐処理、切組の一連の作業が円滑に進まなかったため、結局、完成したのは昭和２７年６月末であった。
-
昭和２６年度末までに完成を要請された理由
(一）信用を確保したい
再建資金の大部分は建設省、山口県から出ているので順調に再建を進め予算確保を円滑に行いたかった。 昭和２６年のケイト台風、ルース台風で工事が遅延して、このまま順延すると次年度予算確保に影響するので昭和二十七年度予算期間内に 架設を完了させたかった
(ニ）錦帯橋流失後、意気消沈している市民、商店を蘇生させたい
桜の咲く時期までには部分的にも完成させたかった
-
ｂ 完成遅延の経緯
国庫の予算上は用材の購入は昭和二十七年度末までとなっており、２７年三月末までに用材の検収を終わる必要があるが、 原木産地の台風災害や降雨で後続用材の購入搬入が困難になった
-
久能市長は最後まで「２７年３月には第一橋、第二橋は完成する」と言い続け、３月上旬には第一橋は完成し、
第二橋に着手できる状況になった。しかし、その後３月末まで降雨が続き憂鬱な日々が過ぎた
-
四月に入り好天が続く予報だったので直ちに足場を架け、桁架渡作業を開始した。６月末には足場を外して第一、第二橋が完成した。
c 石器及び施工上、改善した諸点
(一）高欄の形式と第一橋の長さを変更した
(二）第一橋、第五橋の橋板は、排水のため板の両側を約８分程度削り板をわい曲せしめた。
(三）第一橋、第五橋の橋板継ぎ目に、栗の継目板と接着剤（レキサルト）を充填した
-
(四）高欄と橋板を結ぶ取付金具の締付けは従来、釘を使用していたが今回の工事ではボルトに変更した。
（五）第二橋、第三橋、第四橋は左右の揺れ防止のため、従来より振畄を設けていたが、起橋点の揺れ防止補強のため 鉄製アングルを振畄木の上に取り付けた
(六）橋脚の起橋点では通風の隙間と水抜きの排水路を設けた。桁と桁受沓鉄はボルトで締め付けた。 桁受部を覆う板は取り外しを容易にして内部清掃が出来るようにした。 -
ロ 第二期工事（第四、第五橋の架設）
a 工事概要
工事計画では第五橋は７月中完成だったので、第一橋、第二橋完了後、直ちに工事に着手した。好転に恵まれ 計画通り７月中に完成した。直ちに第四橋の架設に着手し、８月完成し工程は著しく前倒しになった。
b ８月架橋に賛否
第三橋、第四橋の足場は完全に水中にあり、出水や洪水があれば事故必死の状況なため１０月まで工事を延ばすのが 常識的な判断であった。 -
久能市長は、出水さえ無ければ夏場の方が作業しやすい、気象配置状況から２７年度８月には台風は来ないと考えられる、
また、足場を補強すると５〜６ｍの水位では流失しない等から２７年夏場の作業実行に英断を下した
２７年夏〜秋に台風が来なかったので完成時期が早まったが、裏目に出て足場や用材等が流出したら非難噴出であった。
-
ｃ 八月架橋決定及び完成までの経緯
錦帯橋架設協同組合は太陽・月などの気象から８月に洪水は来ないし、ここで数ヶ月間の中休みがあると熟練大工が 四散する。再結集しても熟練大工が集まる保証は無い。是非、意気軒昂な８月に工事をやらせて欲しいと懇願した。 岩国市建設局で議論した結果、「案ずるより生むが易い」と建設局次長の責任で実行することにした。 但し、川原グラウンド作業所は洪水時に用材を即時撤去できる準備を行った。
-
洪水時に足場撤去、用材移動などの労力確保のため横山会館を臨時飯場として日野組人夫２０名を常駐させた。
佐藤博士、青木博士を迎え八月作業実施について意見照会したところ、最終判断は市長一任する事になった。
久能市長は七月二十二日、次の判断を行った
(一）七月末までに第四架橋の準備を行うこと
(二）八月五日までに、足場取付け用の水中杭打ちを終了のこと
(三）架橋決行の判断は橋脚化粧張石工事の進捗状況、天候をみて八月五日に断定する
(四)架橋決行の場合は、水位６ｍ以上の出水時に備え、足場の流失と架橋崩落防止に備えること。架橋完了時には足場を早急に取り除く。
-
八月一日、上京中の市長から「建設省は八月の工事に反対」との電報を受けた。また、１〜２日間の降雨はあったが、下関気象台より
八月十五日までは晴天との予報が出た。好天が続いたので八月十一日には、水中足場、第三橋、第四橋の橋脚化粧張石工事が完成した。
岩国戻った久能市長に工事と気象状況を報告した処、「架橋決行」の英断が下った。
八月十三日早朝より架橋工事が始まったが、その日の午後、南方にキャレン台風発生、本土接近のおそれありとの報告があった。 既に矢は放たれたので、本土接近までの数日間で桁の架渡まで終了させる意気込みで文字通り、昼夜兼行、必死の覚悟で工事を 進め、八月十六日には架渡が完了した。 -
その日の夕刻、キャレン台風は進路を変更して当地方来襲の可能性が無くなった。
久能市長、岩国建設局、錦帯橋架設協同組合は一致協力して不眠不休、決死敢行した。彼らの神々しい姿は筆者の脳裏に焼きついて
離れない。
その後、１，２度、台風は発生したが当地方には来なかった。
九月三日足場取り外し、十一月三日高欄金具の取り付けを持って、第二期工事が完了した。
第一橋、第二橋の３月末架設は失敗して四面楚歌となり、第四橋の架設は成功して信頼を回復した。運命は皮肉である。
ハ 第三期工事（第三橋の架設）
錦帯橋架設協同組合は余勢を駆って、第三橋の用材切組作業に突入し予定通り十月に完成した。
現在の橋脚
柱橋の杭
