キジヤ台風(1950年）で流失した名勝錦帯橋の再建記その４

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第１編　資金及び資材
B　資材の調達、検収、防腐処理、保管
１　架橋用木材
２　其の外資材

第１編　資金及び資材

B　資材の調達、検収、防腐処理、保管

一　橋体用木材
（１）購入
錦帯橋用木材は従来、岩国藩内で調達していた。しかし、今回は一時に多量の木材を必要とする上、戦時中の乱伐採により旧岩国藩内で良材を確保することは困難であった
イ　用材原産地
欅（ケヤキ）　秩父山系、島根県日原営林署、山口県営林署滑
栗樫（カシ）　島根県、広島県

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松材　宮崎県霧島材
檜（ヒノキ）　木曽産（長野県営林署管内）
ロ　用材としての適格条件
錦帯橋の用材は良質材限定で、仕様書の条件通りとした
ハ　調達の方法
岩国藩時代は原木採取から製材まで直営で行ったが、今回は国庫の負担金、補助金に依存しており関係官庁の監督・査定を受けるので製品材の購入という方式を採った。錦帯橋用材調達協力組合が調達する松、檜の原木については岩国市長の委託業務で製材を行った

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錦帯橋用材経験を持つ片山嘉一氏（広島県南観音町）は用材の大規模取引を行っており各地で用材を確保しているので一任するのが得策であったが、地元業者が錦帯橋用材は我々地元で調達させてくれとの要望が強く、津田市長の英断で松、檜材の一部を地元業者に任せた。

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錦帯橋用材調達協力組合と契約した直後、森林法とその付属法令の改正により木材伐採制限が強化され用材価格が急騰した。従来の取引では価格的に調達不可能になった。そのため久能岩国市長は公共団体による官有林原木の特権払い出し入札に参加して優良材を安価に入手することにした。これは、錦帯橋用材調達協力組合に便宜を図ったというより錦帯橋再建工事を早急に実現したいためである。
二　購入価格及びその変動
欅（ケヤキ）、松、檜材の価格は昭和二十六年四月二日、岩国市長と請負2業者間で締結調印した単価請負仮契約書で決定した。この単価契約は採算ギリギリで、当時の一般契約と比較しても相当低額であった。片山嘉一氏は見積もり提出時点で既に低額で買い入れた用材を多量に保有していた。

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昭和二十六年五月～十二月、木材価格は高騰を続け労務費、電気料金、鉄道運賃なども高騰を続け、業者の木材仕入れ価格が単価請負契約で決めた価格を上回る事態になった。建設省はケイト台風・ルース台風の災害復旧のため査定額を見直し国庫負担金を増額し、同時に木材購入価格の契約を見直して増やすように指示してきた。錦帯橋は特殊高級材を使っているため購入価格が高いのはやむを得ない
注　平成の錦帯橋架け替えで通路の板は１枚約百万円だと教えれば殆どの観光客は驚きます

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昭和２６年の物価高騰は凄まじく
昭和２６年４月の松の普通材は、１石あたり９６０円であるが昭和２６年７月では１８００円
昭和２６年４月の檜２等材は、１石あたり１９００円であるが昭和２６年７月では４３００円である

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昭和２６年秋以降、錦帯橋用材調達協力組合が買い入れた原木価格は石あたり松４５００円、欅（ケヤキ）８８００円であった。良材選別で歩留まり率が３０％と踏んで製品木材が如何に高くなったかが理解できる。
再建工事で購入した用材購入費総額は26,865,000円であった。前回、昭和８，９年の架け替えで購入した用材の総額が時価換算で 286.000,000円なので妥当な金額である。
松、檜用材の調達の遅れで第一、第二橋の架設工事が２ヶ月遅れた。これは錦帯橋用材調達協力組合が買い付けた木材を搬出する直前の、７月１０日にケイト台風で山口県滑の林道が崩落して搬出作業が出来なくなった事による。また、急遽宮崎県霧島産の用材購入に方針変換したが、１０月１４日のルース台風で現地山間部に集結した原木が流失した。これら不測の事態で用材搬入作業が遅れ、昭和２６年１２月で終わる予定が昭和２７年３月末までかかった。

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錦帯橋再建工事、購入木材総額一覧と木材単価表

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木材購入内訳表
錦帯橋用材調達協力組合員名簿

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(２) 検収
建設局当事者は終始、厳正で公正な検収を実施した
イ　欅（ケヤキ）、栗、樫材の検収
　　欅（ケヤキ）　片山嘉一氏が関東の製材所に集結していたので池袋で実施
　　栗、樫材　　　片山嘉一氏の広島東観音町　製材所で検収を実施した
ロ　松、檜材の検収
岩国市内、向今津の岩国木材、今津川口の錦川木材、藤井林材、桑田木材の各製材所で６ヶ月間、計１２回実施した。検収は市民監視の下、市議会議員も参加して公開で行った。

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錦帯橋用材調達協力組合による松、檜財検収では当初不合格率が高かった。これは組合員の認識が甘く用材の鑑定や製材技術に問題があった。しかし、後半は徐々に技術が上がり合格割合は３０％の実績に落ち着いた。
注）
一　欅（ケヤキ）中長尺物は芯去不要
特殊材として検収時に合格したにも拘らず、その後大きく歪曲して利用できない欅（ケヤキ）材があった。欅（ケヤキ）材は本来、水中保管が原則であったが、仕様書の「標準規格」で全て芯去り納入と記載した事で、業者はわざわざ芯採りした。今後、同じ失敗を繰り返さないため欅（ケヤキ）は水中に保管か、芯去り不要にすべきであろう
二　検収が長期にわたったのは、防腐処理や輸送の都合による
三　検収合格材木には錦帯橋マークの刻印を押した
(3)防腐処理

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木材用防腐剤は従来クレオソートを主剤にしていたが、錦帯橋では最新のPCPを使った。
イ　防腐処理を施すに至った理由
当時木材需要は急激な増加を示していたが、外国材の輸入が制限されており建築材は枯渇して全国的な乱伐採が行われていた。この状況では従来のような良材取得は２００～３００年間困難であるため、建設省や学者は木材に防腐処理を施して長く使うという方針になった。

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建設省は防腐処理に国庫補助を行う方針になったので岩国市は、これを受け入れることにした
ロ　PCP選定の経緯
昭和２６年初夏、佐藤博士の斡旋で広島県の山陽木材防腐株式会社に委託して各種防腐剤の実験を行うことにした
(一）クレオソート剤
重油を混合して注入するため浸透力・耐久力とも優れているが黒色が付くので美観を重んじる錦帯橋には不適である
(二）マーレニット剤
クレオソート剤より耐久性があるが黄色に染まり斑点を生じることもあることから下部構造には使える。欄干・橋板には使えない
(三）PCP剤
日本で製造されており日光東照宮、法隆寺にて試験的に使用されたことはあるが、本格的な利用は無い。錦帯橋の古材を調べるとシロアリの被害があるので防虫対策は必要である。

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米国ではシロアリ防腐剤として利用され耐久力はクレオソート剤の３倍ということである。
昭和２６年９月４日、市議会議事堂において第３回錦帯橋建設特別委員会が開催され、専門委員、建設省建築研究所、山陽木材防腐株式会社、で防腐剤をいずれにするか議論した。久能市長は次の提案を行い一旦、了承された
（一）下部構造にはマーレニット剤
（二）橋板は磨耗による損傷が激しく防腐効果が少ないため、防腐処理は行わない
（三）欄干は変色の少ない水溶性PCP剤を注入する

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しかし、建設省と学者は全木材にPCP剤を注入すべきという意見が根強く交渉は行き詰った。
昭和２６年１１月上旬、佐藤博士の尽力で大阪の東洋木材防腐株式会社が、採算度外視で予算内に収めてPCP剤を注入すると提案してきた。岩国市当局は早急に交渉をすすめ、栗・樫材は効果が小さいので注入しないが、他はPCP剤を注入することで決定した

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PCP剤を注入する工場が無いので一旦、沙汰止めになった。久能市長は大阪の東洋木材防腐株式会社を訪れ、予算の範囲内で大阪工場において防腐剤注入作業を行うことで妥結した。

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東洋木材防腐株式会社の専務取締役壱岐俊夫氏、江尻登氏の防腐処理に対する誠意と犠牲的精神はすばらしく、真の功労者というべきであろう。
ニ　防腐処理の為の木材輸送
従来は木材問屋から大工が受け取っていたが、今回は大阪まで輸送して防腐処理を行うことになった
(一）製品材木を輸送するので毀損・損傷が無いこと
(ニ）防腐剤を注入した用材は固着剤を塗布してないので雨ざらしにしないこと

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拠点駅は各木材を保管する東京、大阪桜島駅、広島己斐駅、呉線坂駅、岩国駅、西岩国駅で鉄道を使い大阪桜島駅に運搬し、鉄道と製材所間は馬車または自動車を利用した。こうして、昭和二十六年十二月十五日から昭和二十七年七月七日の７ヶ月間の大輸送作戦を実行した。

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製品材は削れる厚みが殆ど残っていなかったので、日通と東洋木材は貴重品を扱うように運搬した。このかいあり、製品材が輸送によって不合格になることは無く奇跡的に完了した。作業員はPCP剤でくしゃみや涙に悩まされ厄介者であったことは間違いない。

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（一）固着剤の塗布
水溶性PCPは剤長期的には雨で流れるので、切り込み加工した後に固着剤を塗布する必要があった。固着剤はPCP剤製造元の三井化学の目黒研究所で研究した結果、住友化学の硫酸アルミニュームが適しているので、これを使った。塗布は薄めた硫化アルミニュームを農作用噴霧器で散布し、乾燥すれば散布するを３回繰り返した。ただ、長く重い木材は５人がかりないと作業できず苦労であった。
(ニ）油性PCPの塗布
水溶性PCP材は大部分の木材の中心部まで浸透しているが切り組みすると、太物長尺木材は中心部まで浸透していないことがあった。不浸透部が表面に出てくる場合、景観を損なうことの無い箇所は油性PCP剤を塗布した。１橋あたり石油缶２個分で、計１０個塗布した。この油性PCP剤は三井住友化学目黒研究所が錦帯橋のために調合して寄贈して頂いた。

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わが国でPCP剤を本格的に使うのは初めてなので三井住友化学本社と、目黒研究所の方が岩国に来て関係者に塗布方法を指導した。また岩国市錦帯橋再建建設局管理下で実施した。
へ　防腐剤を注入した場合の橋体の寿命
錦帯橋の年代史によると、橋板・欄干は１７～１８年、下部構造は３６～３７年置きに架け替え更新している。米国ではPCP剤を浸透させると１００年大丈夫といわれている。しかし、欄干・橋板は磨耗による損耗が大きいので腐食に関係なく架け替えが必要だろうが、下部構造は従来の２倍は耐久性はあると見込んだ。

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下部構造は防腐剤注入により従来の２倍程度に寿命が延びると推定するが、評価は後世に委ねることにする
注　平成２７年現在の「錦帯橋　平成の架替」冊子の年表によると
昭和２８年(1953)　錦帯橋再建
同年　　　　郵政省は安藤広重が錦帯橋を描いた浮世絵を記念切手として発行した
昭和４４年(1969)　橋板シーリング打ち　　（久能市長、品川次長の言葉通り１６年目で橋板が磨耗した）
平成３年(1991)　後世のため、岩国市高照寺山に錦帯橋用材として欅（ケヤキ）２０００本を植樹
平成１６年(2004)　平成の架け替え完了　（久能市長、品川次長予測の倍ではなかったが、約５０年もった。快挙である）
但し、今後は地元大工への古式技術伝承のため三十年おきに架け替える計画で、平成２７年岩国市に錦帯橋課が設立された

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附表
昭和２６年、昭和２７年度　木材防腐処理工事明細

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イ　木材格納倉庫
岩国保勝会が山口県から借用中の横山堤防（錦帯橋から千石原に至る道路）に倉庫五棟を新築し、また深川前旧バス停車庫を使い保管した。

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用材は橋梁別、剤種別、用途別に番号札をつけ帳簿・出納帳で管理した。また火災・盗難防止のため仮住宅を建て夜間照明を設け、周囲に有刺鉄線柵を設けるなど昼夜監視体制を敷いた。ニ　その他資材

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(1)セメントの購入、保管
セメントは橋脚の基礎工事、河床の床固定、橋脚の心壁、石積内部の充填、桁受け、畳石の接着、両岸取付、階段の舗装などに使う。佐藤博士の意見を勘案して結局、小野田セメント、宇部興産株式会社製ポルトランド、セメントを購入して使うことに決定した。岩国市建設局は直接、これら会社と交渉して優先的に購入できるようにした。購入したセメントは横山建設局倉庫、及び吉川家事務局倉庫に格納・保管した。（２）石材の調達
石材は次の区分によって旧橋の残材をそのまま、また新規に購入して充用した。イ　橋脚（台）躯体化粧張石

全部旧橋のものを利用す

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ロ　剣先石の一部、橋脚(台）天端笠石（石積みの上部に被せる石）、亀子敷石
日興土建株式会社の手で広島県倉橋島の石材を購入した。左岸橋台敷石は旧橋のものをそのまま使用す。
ハ　第一、第五橋の普通橋脚柱受石
前記と同じ広島県倉橋島産出の石材を使用した
ニ　河床々固用石材
第三橋下流側河床々固用敷石、及び第三橋、第四橋上流側河床の捨石
日興土建株式会社が所有する岩国市錦見町検察庁裏山の岩国山石材所から運搬充当した

その他、河床々固用石材は旧橋のものを利用した
(3) 砂利・砂
橋脚基礎の井筒打ち抜きのため掘り出した砂礫を洗い出して利用する予定であったが、ケイト台風、ルース台風で集積物が流失したため錦帯橋上流約３００ｍの河原から運搬した。
(4) 鉄筋、鋼材、金具類、その他雑品の購入、保管
これら資材は殆ど新規購入し、建設局倉庫、吉川家事務所、徴古館倉庫、深川前旧車庫に分散保管した