名勝錦帯橋再建記

第５編　余禄
１　錦帯橋再建工事とルース台風の被害　
２　橋体震央試験の実施　　　　　　　　
３　炬火籠の新設　　　　　　　　　　　
４　再建記念碑の設置　　　　　　　　　
５　錦帯橋の由来と構造記設置　　　　　
６　槍倒松の終焉　　　　　　　　　　　
７　厳流ゆかりの柳設置　　　　　　　　

• 第五編　余禄

  １、錦帯橋再建工事とルース台風の被害

  昭和二十六年七月十日のケイト台風の時は工事は初期段階であったが、ルイス台風の被害は錦川流域全域に及び、 錦帯橋再建工事も深刻な被害を受けた。
  (1)気象及び水状に関する情報
  


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• ルース台風とその被害

  昭和二十六年十月十二日のルース台風の時は錦帯橋再建工事現場に設置した量水標で最高水位10.02mまで達する未曾有の大洪水であった。 当事、左岸第五橋台の残骸取除け作業と、第一、第二、第三、第４橋の橋脚基礎用の井筒工事中であった。


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• 昭和二十六年十月十四日午後１１時には横山地区は停電で、十五日午前２時には電話が不通になり孤立した。


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• (２)防災対策
  イ　工事現場の動力設備と資材の撤去
  ロ　左岸橋台の土砂崩落防止のため、土嚢１８０俵配置
  ハ　第二号橋脚井筒掘削現場、第三号橋脚井筒掘削現場、第四号橋脚井筒掘削現場で、井筒口閉鎖、 流木による破壊防止としてワイヤで型枠締め付け、ワイヤで陸上の樹木へ結びつけなどを実施
  （３）被害状況
  


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• 足場流失、井筒工事用機材流失、井筒型枠流失、井筒枠傾斜、井筒用掘削孔が埋まるなどであった。 家屋その他の流失物多数で、之に取り付いて助けを呼ぶ必死の人声も聞こえ、阿鼻叫喚の様相であった。 錦帯橋再建工事現場の被害は約１５０万円であった。
  (4)災害復旧対策
  イ　第一号橋脚井筒
  減水後、埋没土砂の取除きと井筒沈下作業に着手
  


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• ロ　第二号橋脚井筒
  洪水に備えて井筒掘削孔を塞いでいた古い鉄道レールを撤去して、井筒沈下作業に着手
  ハ　第三号橋脚井筒
  井筒の型枠及び、鉄筋組立中の鉄筋が崩壊した。工事用舟艇で残骸を回収して修理、工事を再開した
  二　第四号橋脚井筒
  井筒の型枠及び、鉄筋組立中の鉄筋が流失したため、運搬船で探したところ愛宕橋に引っかかっていた為、 分解して工事現場まで持ち帰った。修理して約１ヵ月後、工事を再開した
  ホ　工事用機械器具、仮設備
  足場、櫓（やぐら）、飯場等は流失したが１０月末までに復旧した。
  へ　事務所
  台風で損壊した屋根、窓ガラス、倒壊した便所を修復した。
  ト　仮橋
  橋脚杭が殆ど流失したため、仮橋の長さ・高さを増して１０月２３日着工し、１１月７日に竣工した。
  (5)錦帯橋建設局の非常態勢と活動
  台風に備えて非常体制を組んだ
  


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• (一）局本部
  (二）左岸防災作業班
  (三）右岸防災作業班
  


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• 昭和２６年１０月１５日午前１時頃には千石原付近で堤防を越えて侵入する河水で船でしか移動できなくなった。 午前３時頃には堤防が決壊して電話不通・停電になり、消防団と協力して婦女子・老人を白山神社・洞泉寺に避難誘導し、 防災用資材運搬、堤防決壊箇所付近の防水作業、千石原住民の避難救済、横山地区の浸水地帯の救済などを行った。 午前４時半、横山振興連盟会長島宗二氏の依頼で、浸水地区の市民・避難者に炊き出しを実施し、翌日夕食まで約６８０人分の給食を配った
  


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• ハ　被害状況
  錦川に架かる橋は、大正橋を除いて全て流失した。大正橋も通行は危険で、唯一、岩徳線鉄道橋梁のみ通行できた
  (一）１０月１５日、錦帯橋再建工事被害状況報告書を市長に提出
  (二）１０月１６日、錦帯橋再建工事被害状況報告書を緊急市議会に報告
  建設省、在京関係者に被害状況を打電。建設省と山口県宛に図面と写真を送付。
  （三）山口県選出国会議員（重宗雄三、来栖赳夫、佐藤栄作他）、佐藤博士、青木博士に被害状況の書類を送付
  尚、山口県副知事、建設省防災課技官、建設大臣、山口県知事、岩国市委託工学博士が、次々と被害状況の視察に来た
  


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• 視察に来た国会議員、文部省政務次官、建設省河川局長、山口県教育長、山口県土木部長等


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• ルーズ台風による水位曲線グラフ


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• 錦帯橋下水位流水量等曲線　其の一


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• 錦帯橋下水位流水量等曲線　其の二


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• 錦帯橋下水位・流水量一覧（其の一）


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• 錦帯橋下水位・流水量一覧（其の一）
  錦帯橋下水位・流水量一覧（其の二）


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• 錦帯橋下水位・流水量一覧（其の二）


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• 錦帯橋一般図


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• 2、橋体振動試験の実施

  再建した錦帯橋が、旧錦帯橋より丈夫であることは工事関係者は実感しているが科学的に検証した
  日時　昭和２８年３月１３日
  場所　中央架橋
  実施者　青木博士、佐藤博士
  助手　　早稲田大学助教授、講師、大学院生、錦帯橋建設局職員
  実験要員　岩国市役所職員６１名
  実験の結果は、青木博士編集の「橋体の強度及び振動試験報告書」を参照のこと
  岩国徴古館に保存しています


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• ３、炬（かがり）火籠の設置

  錦帯橋は道路なので、何らかの照明設備が無いと通行に支障が出る
  電柱を設置する案もあったが景観上、工事中使用した両岸４個の投光器をそのまま残地して活用する事にした。 また、新たに炬（かがり）火籠を橋脚の先端に取り付けた


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• ４、再建記念碑の設置

  従来、錦帯橋架替工事の時は橋体裏の桁に関係者の氏名を連記している。 今回も第二、第三橋体裏の桁に錦帯橋架設協同組合及び建設鉄工会の氏名を残している。 然し、記念碑を設けたことは無いので残すことにした
  (1)台石は花崗岩、碑石小さな自然石とする
  (2)碑文は正面に「錦帯橋」の３文字のみを記し、左右両側には「起工昭和二十六年二月及び竣工昭和二十八年３月」、 「施工、設計者岩国市錦帯橋建設局」と刻む
  (3)碑下には関係者を刻記した銅版
  (4)設置場所は左岸緑地の左端付近とする
  碑文は五橋書道院主岡崎雲山氏に依頼し、施工は日野賢とし、昭和二十七年十二月二十九日建立した。
  


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• 銅版に刻んだ関係者所属、氏名一覧


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• 銅版に刻んだ関係者所属、氏名一覧


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• ５、錦帯橋の由来と構造記設置

  観客用に横山の保勝会が錦帯橋の由来と構造記の掲示板を設置していたが、これを新規に作り替えた。
  

  ６、槍倒松の終焉

  徳川幕府時代、九州方面の大名が参勤交代するとき西国街道を通り錦帯橋を通過していた。 当時、大名行列が他藩の要所前を通過するときは槍を倒して挨拶するのが慣例であるが、岩国藩を ６万石の小大名と見下していたか、槍を倒さない。考えた挙句、錦帯橋の付近の路上を覆うように枝振りのいい松を植えて どうしても槍を倒さなければ通れないようにした。この由緒ある老木は昭和初期に枯れかけたが宮崎大学農学博士の 手で回復した。


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• 錦帯橋再建工事後に、槍倒松が枯れかかったので再度、宮崎大学農学博士中村博士に診断をお願いしたところ
  (1)[かひがら虫」の害によるもので、小枝を切断焼却すると共に駆虫剤を散布した
  (2)しかし、病状は悪化したので中村博士に確認したところ松の寿命が尽きているので速やかに後継の松を探すようにとの判断であった
  


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• 新聞にも「槍倒松臨終近し」と掲載され、山口県林業指導課、岩国市役所農林水産課、山口県玖珂地方事務所林産関係官などが いろんな手段を施したが効果なく、約３００年ぶりの錦帯橋橋脚崩壊と時を同じくして老木も約３００歳の寿命が尽きた。
  

  ７、「厳流ゆかりの柳」の設置

  宮本武蔵と佐々木小次郎が下関の厳流島で真剣勝負を行ったのは細川藩の記録に残っており事実である。しかし、佐々木小次郎の生国が 周防岩国という記録は無い。昭和初期、吉川英治は錦帯橋近くの深川旅館で朝日新聞に連載した宮本武蔵を執筆しており、 深川の女中お通さんと同名の女性が小説に出ているのは知られている。ハエを武蔵が箸で掴む話は岩国藩剣豪の話で残っている。 しかし、佐々木厳流と岩国は何ら繋がりは無い。厳流島の決闘は慶長十七年四月十二日であり、錦帯橋が創建されたのはその後である。
  


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• 佐々木小次郎は真剣勝負の決闘をするまでは無名の剣士なので記録には無いが、横山の土手には樹齢数百年の柳の木がある。 観光客や新聞社が吉川英治の作品の影響で、佐々木厳流ゆかりの柳を尋ねてくるので、


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• （一）吉川英治の著書「宮本武蔵」の内容に合致させる
  （二）錦帯橋は当時、無かったので錦帯橋という言葉は使わない
  （三）事実は不祥なので断定的な表現はしない
  という前提で、案内板を設置した。


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