名勝錦帯橋再建記
その１ (1 - 12頁) / 全400頁岩国中央図書館所蔵
品川 資（当時、岩国市錦帯橋建設局次長） 著述
1954年5月発行
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緒論
１ 錦帯橋流失の原因は何か
２ 再建決定の３大要因
３ 再建の構想
４ 再建の機構
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１ 錦帯橋流失の原因
（１）直接的原因
イ） 橋脚が崩落したのは、河床の３層敷石のうち表面付近の敷石が長年の水勢で損傷を蒙り、橋脚下を洗い流す水流で橋脚石垣が緩み橋脚内部の砂利・栗石が洗い流された。 橋脚内部に空洞が出来、洪水時の水圧を受けて橋脚が崩落した
ロ） 木造の架橋は橋脚に固定しているのではなく、橋脚の上に置き、両端の架橋から押され突っ張りあう力でその場所にとどまっている。 両方の架橋から押される圧力は橋脚上の隔石を挟んでバランスをとっている。 橋脚が崩れると隔石がズレて無くなり、架橋の重さを支える圧力が無くなるので次々に崩れる。
（２）間接的原因
イ） 戦時中の錦川流域山林の乱伐で水勢・水量が急激に上がる傾向があった
ロ） 戦後の復旧工事で錦川河原の無計画な砂利採取があり河床が変化して水勢が強くなった。
ハ） 錦川上流のダムが放流するタイミングが悪いことがあり水勢が強く河床を損傷する事があった。
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キジヤ台風並みの洪水は過去１００年間で数回おきている
明治３５年 ８月１０日 9.16m
昭和 ８年 ８月１３日 9.46m
昭和１０年 ７月２９日 8.39m
昭和２０年 ９月１８日 9.40m
昭和２５年 ９月１４日 8.90m キジヤ台風
昭和２６年１０月１４日 10.02m ルース台風
２ 再建決定の３大要因
（１）官民一致の運動
〇 岩国市 昭和２５年 ９月１４日 岩国市役所で即日、緊急臨時市議会を召集して各方面へ復興活動を開始した
〇 山口県 昭和２５年 ９月１９日 山口県議会で再建決議
〇 山口県 市議会議長会 昭和２５年 ９月２２日 再建決議
〇 市民団体 岩国商工会議所 横山保勝会 観光協会 等が中央政府へ再建の陳情書提出
〇 市民団体 岩国婦人会 青年団 横山保勝会 等の代表が上京して再建運動
〇 山口県当局者 岩国市市議会 岩国市事務当局者の代表が上京して再建運動
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（２）日本全国観光１００選の建造物部門で第一位当選
昭和２５年８月、毎日新聞は日本全国観光地１００選を一般投票で選ぶ企画をした。 １０部門ごとに１０位までを選ぶもので、当時、錦帯橋は国宝の動きもあり「建造物」部門に挙がった。 ９月上旬から投票が始まり紙面を賑わしており、締め切りは９月末であった。 しかし、何とこの最中の９月１４日、錦帯橋は洪水で流失した。市民の失望は相当なものであった。
津田岩国市長は一大奮起し、投票用紙を多量に購入して投票した。それが影響したかは不明であるが、何と錦帯橋が建造部部門で 圧勝の１位であった。2位の耕三寺から消失したものを１位にするのは納得できないと苦情があったが、毎日新聞はいずれ復興するから これでいいと突っぱねた。これにより再建の機運が益々盛んになった。 -
（３）東京西銀座の料亭「Aワン」会議
昭和２６年１月下旬、岩国市当局、市議会関係者は大挙上京して、中央政府と交渉を重ねた。 昭和２６年１月27日、東京西銀座の料亭「Aワン」に建設省、文化財保護委員会、山口県庁関係者、学者を招待して錦帯橋の原型復旧を訴えた。 本会議の席上、次の異論が出た
〇 橋梁はアーチ型にするも木製をやめて近代的な鉄筋コンクリート製に変更
〇 起橋点は腐食しやすい木製をやめ、コンクリート桁に変更
〇 普通の平坦な近代的な橋にすべき
しかし、岩国市当局、市議会関係者の熱心な説得、及び岩国市出身の建設省河川局防災課長加屋茂一氏、岩国市と関係ある佐藤・青木工学博士等の 助言もあり、結局、原型通り復旧する結論にいたった。これにより、錦帯橋の再建と政府の再建方針が決まった
歴史的な会議といわれている
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３ 再建の構想
（１）再建の方針
「Aワン」会議の2日後、建設省の河川局長、道路局長連名で岩国市長宛に正式な通達があった。 錦帯橋は少し前まで国道であり、国道2号線ができてからは市道になったが、以下の条件を守れば工事費の一部を国庫負担するという内容で、 かつ原型復旧の根本方針が明確になった。
①橋脚の中心部は鉄筋コンクリートの井筒とし、地質調査の上なるべく深くすること
②井筒構造はさらに検討すること
③架橋の両端で橋脚の上に設置する木材部分は腐食しやすいので構造に留意すること
④高欄は古式に倣うよう工夫すること
⑤国庫負担の設計費・工事費を超過する場合は、岩国市の責任で調達すること
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（２）設計上、古式から改変した主要点
青木博士・佐藤博士を中心に設計を進めたが基本方針は原型復帰なので、古式設計図面を忠実に再現しており外見上は創建時と殆ど変わりない。 しかし、洪水で橋脚内に空洞ができたことや建設省の指導があり以下を改変した
イ） 井筒構造
橋脚の中心部は古式では砂利と栗石・漆喰であったが、流れることがない近代的な鉄筋コンクリートの井筒構造に改変し、 橋脚の地下１０ｍまで鉄筋コンクリートの井筒打ち込み、上部躯体部分内部は鉄筋コンクリートの心壁を設けた
ロ）橋脚の高さを１ｍ上げた
洪水時の水位を考慮して、架橋中心付近を１ｍ高くした
ハ）隔石に代わり鋳物鉄を設置
隔石に雨水がたまり木材腐食の原因になるといわれてきたので、排水機能を持ち通風性がある鋳物鉄に変更した。 また古式錦帯橋で弱点と言われてきた起橋点にある曳入桁に防腐対策を実施する
二）木材に防腐処理 古式では木材の防腐処理はしていなかったが、木材に防腐処理と防虫剤を注入
ホ）高欄の擬宝珠式はやめ、古式に戻す
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（３）高欄の擬宝珠
古式錦帯橋の欄干・手すりは簡素なものであった。江戸時代は禄高に応じて格式が決まっており欄干の形式も吉川６万石では擬宝珠は使えなかった。 昭和初期の架橋架け替えの時に地元の要望で高欄を擬宝珠に変更したが、文化財保護委員会から歴史的に６万石の格式では使えないので元に戻すようにとの指導があった。 安藤広重の浮世絵でも古式の格式に沿った質素なものだった。欄干・手すりは享保２年の形状に合わせた。 -
４ 再建の機構
（３）再建組織
昭和２５年１２月２６日、津田市長は施設部に錦帯橋課を新設し岩国支所の一部を事務所にした
昭和２６年 ８月 １日、久能市長は錦帯橋課を錦帯橋建設局に昇格させた。
市長が局長兼務で、本書執筆者品川資氏が次長に就任した。
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錦帯橋建設局設置条例で制定された業務規定
総務課の業務、工務課の業務。 - 錦帯橋建設局の組織体制及び、外部委員。
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専門委員・嘱託業務が述べられており、佐藤博士・青木博士は嘱託になった。
佐藤博士は県立岩国中学校（現、岩国高校）の卒業生で、徴古館、商工会議所、山陽パルプ等を設計している。
青木博士は早稲田大学の主任教授で、岩国藩元藩士の田島家と昵懇であった。
